介護保険法による要介護認定者と税の障害者控除に関する質問主意書

提出者 佐々木憲昭

 

 納税者自身又は控除対象配偶者や扶養親族が六十五歳以上で、所得税法上の障害者に当てはまる場合に障害者控除が受けられることは、関係者への制度の周知がいまだ不十分で、申告件数も決して多いとは言えない。また、本来適用されうる事例でも対象外として扱われる場合もあるのではないかと危惧される。

わが党の東京都議団の調査によれば、平成十七年度に東京都下で障害者控除の対象者認定書が発行されたのは総数八百四十五通で、まったく発行されなかったのが、二つの区を含めて十五自治体に及んでいた。このうちある区の例では、所得税更正請求書を税務署に提出しようとした人が、「障害者手帳がなければ認められない」と拒否されかけ、懇請の末にやっと請求書を提出したものの、続いて障害者控除対象認定書を申請した区役所でも、特別障害者に該当する者以外は受付けられないと言われ、なおも交渉を続け、ようやく認定を受けることができた。

名古屋市では昨年度、要介護四及び五の認定を受けている者だけでも約一万五千人であったが、そのうちで障害者認定書の発行を受けているのは三百十五件だけで、要介護認定者数から直接に障害者認定数を求めることは出来ないものの、あまりに少ないと言わなければならない。また、さる九月の市議会本会議でわが党の議員が、過去にさかのぼって障害者認定するよう求めたところ、担当局長は、かつて国が示した認定書の書式(昭和四十五年六月十日社老第六九号各都道府県知事・各指定都市市長宛て厚生省社会局長通知)に認定日時を記す欄がないことを理由に「遡及できない」と答え、その後、わが党議員が厚生労働省に問い合わせた結果などを示すなかでようやく、一部の遡及を認めるようになった。

このように、納税者、国民だけでなく税務職員を含む行政機関職員にさえ、制度が正しく理解されていない状況はきわめて重大であり、直ちに改善が必要である。

そこで以下、質問する。

 

一、所得税法改正などにより、障害者控除の適用が高齢者に拡大されたのは、昭和四十五年であるが、それからさらに三十年余が経過し、その適用対象になりうる高齢者の数は格段に増大している。また、その間にわが国の経済と国、地方の財政状況が大きく変化する中で政府の施策により、健康保険、介護保険の保険料や利用者負担、年金の掛け金、さらには高年齢者控除等の廃止による実質増税など、高齢者にかかる負担が急増する一方で、各種の社会保障制度の給付削減が行われた。そのため今、高齢者の生活には大きな苦難が及んでいる。そうした折だけに、高齢者への障害者控除は、制度創設の趣旨に照らしてもいっそう重要性が増していると思うが、政府の考えはどうか。

二、国税庁の「タックスアンサー」(No.1160)には、「このたび介護保険法の規定による要介護認定を受けましたが、所得税法上の障害者に該当するものとして、障害者控除の適用を受けることができますか。」という質問に対する答えとして、「所得税法上、障害者控除の対象となる障害者とは、所得税法施行令第十条第一項に限定列挙されており、・・・介護保険法の要介護者の認定を受けている人については、規定されておりません。したがって、所得税法上の障害者に該当しない場合には、介護保険法の要介護者の認定があっても、障害者控除の適用は受けられません。」としか書かれていない。

しかし、実際には要介護認定者のうちで障害者に準じる状態にある者は相当に多い。したがって、それらの者が、障害者控除の適用を受けられるのではないかと考えることには相応の根拠があるし、国税庁がこの「QアンドA」を設けたこと自体、そうした現実を反映してのことであろう。それにもかかわらず、控除が受けられる可能性や条件にはいっさい言及せず、適用を受けられないとの記述をするのみでは、制度の正しい周知を妨げるばかりか、申請を抑制する意図があるものとさえ受け取られかねない。

ちなみに私は、平成十四年三月二十七日に名古屋国税局が「所得税時報第九号」で、「福祉事務所長等が交付した『障害者控除対象者認定書』にそ及して認定する旨の記載があった場合の障害者控除の適用等について」を発し、そこに国税庁個人課税課からの「連絡」を示し、添付文書で「要介護者の一部には、福祉事務所長等の認定を受けることにより、所得税法に規定する障害者に該当する者が存在することになる」と書いていることを承知している。また厚生労働省は、「事務連絡」(平成十四年八月一日)に添えた「市町村長の具体的な認定方法について」の中で、「市町村が有している申請者の情報(要介護認定に係る情報等)により、申請者の障害の程度やねたきり老人であることが確認できる場合には、これを参考にすることも考えられます」と、要介護認定と障害者認定には一定の相関性があるとの見方を示しているが、その事務連絡の内容については、「国税庁、総務省当局の了解済み」と断り書きされている。

そこで質問する。

前掲の「タックスアンサー」の回答では、「要介護認定を受けているだけでなく、市町村長等から障害者に該当すると認定されている場合」など、要介護認定者が税の控除を受けることができる場合についても解説することが、設問に正確に答えることになると思うが、どうか。

 

三、障害者控除による還付請求は法による範囲内で過去に遡及できるものである。さきに引いた国税庁個人課税課からの「連絡」には、さかのぼって障害者認定が行われた場合、「すでに申告書を提出している場合には、過去五年間について期限後申告が可能」であり、「申告書を提出している場合」も、「国税通則法第七十条第二項の規定により、五年間は職権減額更正ができる」と明記されている。ところが、さきに例にあげた名古屋市では、「認定に必要な資料が保存期間を過ぎている」などを理由に、遡及して障害者認定できる期間を「三年間」に限るとしている。

そこで以下、明らかにされたい。

@遡及適用に必要な障害者認定を行う市町村等が、認定する期間を国税当局が認める期間より短く限定することは、国が納税者に認めた税の還付の権利を不当に制限するものと考えられるが、政府の見解はどうか。

A昭和四十五年の厚生省社会局長通知が、認定は「嘱託医、民生委員等の協力の下に、前記基準に基づき」行うとしていることは、介護認定時の情報など市町村に資料が存在しない場合でも、医師の診断書や意見書等、他に合理的な根拠を当事者が提示できる場合には、市町村等はそれにもとづいて認定に努力すべきであると考えるが、どうか。

 

四、この制度に必要な事務が複数の行政機関にわたることも、周知が不徹底になっている一因ではないかと思われる。障害者控除の対象拡大が行われた昭和四十五年に関係機関へ通知されて以降、平成十四年にも全国課長会議や文書通知などで周知がはかられているが、前述のように少なくない市町村等をはじめいまだ適切な事務処理が行われていない状況がある。そこで以下の点を明らかにされたい。

@近年において、国税庁、厚生労働省、総務省では障害者控除の周知についていかなる措置が講じられたか、またその効果をどう把握しているか。

Aこの際、さきにあげた遡及適用の取扱など、これまで個別に明らかにされてきた点も含め、この制度の事務処理に必要な諸点を総合的に整理して、関係機関に対し正確に周知をはかる手だてを講じることについて、政府の考えはどうか。

右、質問する。